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【ハーバード大学は「音楽」で人を育てる】を通して音楽を学ぶ意義を考える

投稿日:2019-10-19 更新日:

子どもの習いごとを考える時に、多くの方は音楽・楽器を習わせることが子どもの将来にどのような意味を持つのか考えるだろうと思います。私もそうでした。

音楽は長い間「潰しがきかない分野」と言われてきました。音楽を勉強してその道で成功できればよいですが、そうならなかった時には勉強してきたことが他の職業ではほとんど生かせないという意味です。

「何か楽器を習わせたい」と思いながら「もっと将来に繋がる習いごとの方が良いのでは」と悩んでらっしゃる方に、音楽を学ぶことは音楽の道以外のあらゆる分野においても有意義であることを 【ハーバード大学は「音楽」で人を育てる 21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育】 を紹介しながら説明します。

この記事を読むと自信をもって子どもに音楽の習いごとを勧められるようになります。

【ハーバード大学は「音楽」で人を育てる】

本の内容

菅野恵理子著【ハーバード大学は「音楽」で人を育てる】、世界の先端をいくハーバードやMITなどの各大学で驚くほどの音楽教育が提供されている実態。音楽とは直接関係の無い専攻の学生たちが、音楽・芸術に関する膨大な学びに取り組んでおり、軒並み世界のトップの大学がそういう方向に進んでいる現状がわかりやすくまとめられています。

これは基本的には現代はじまった流行ということではなく、数百年前から続く学問の歴史。特にも西洋のリベラル・アーツ教育(総合的な教養教育)の伝統に基づくものであり、これらのことが歴史的に順を追って説明されており、そもそも学問とは何かという根本的な事柄と芸術の不可分な関係性が論証されています。

教育関係の方とか、音楽関係の方には特にお読みになることをおススメします。  

音楽・芸術教育再興のきっかけ

20世紀前半においては、西洋でもリベラルアーツの伝統に基づく総合的な学問が下火になる時期がありました。

それは、二つの世界大戦に象徴されるような国家・民族の対立が激しくなる時代の中で、総合的な学問ではなく国家に直接益となる人材を育てることに重きが置かれるようになったからです。そのような全体主義的価値観の下では芸術を学ぶ意味は認められなくなります。

このような歴史的反省。さらにはこれから訪れるAIの台頭する時代の中で人間の固有性を問い直すことが急務になっている。

そういう中でリベラルアーツ教育。芸術を不可欠な分野として位置づけ直す動きが急速に進んだという菅野氏の分析でした。

芸術を軽んじる日本の教育

今、日本の中学校では3年生になると音楽の授業は週1時間しかありません。高校受験に向けて主要教科の勉強だけが重んじられるのですが、体育の授業はそれなりの時間数があります。体力作りは大切ということでしょうか。

日本では音楽や美術などの芸術科目を、授業時間に余裕がある時のおまけ程度にみなしています。このようなセンスは上記のように世界のスタンダードから逸脱していて、やがて日本における主要教科偏重の教育課程の弊害が現れてくることでしょう。

ですから、世界の潮流である芸術・音楽教育は家庭で補っていく必要があるのです。

右脳、左脳

では具体的に音楽教育によって身につく力とはなんでしょうか。

非常に単純化して右脳・左脳に分けて脳の働きを考える時に、日本の学校が好む主要教科偏重の勉強によって鍛えられるのは左脳です。一方芸術が刺激する脳は右脳なのです。

左脳の働きは論理的思考や言語能力であるのに対して、右脳の働きは感性や感覚を中心としています。

論理的であるということは「あれとこれとの違い」を明確にし分析すること。一方、右脳の働きである感性・感覚は協調性や一致の方向に働きかけます。

対立の時代における音楽の力

現代、あらゆる事柄において対立的な方向に物事が進んでいます。イデオロギーの対立からはじまって環境問題や食に至るまで、善悪を問い合うような対立が深まっています。これが左脳偏重の典型です。

この本の中で菅野氏が言及しているのですが、ハーバード大学などで学ぶ音楽というのは学問としての音楽だけでなく、楽器などの実技が含まれているそうです。

音楽も頭でっかちになると途端に対立的になりますが、演奏するにしても観賞するにしても音楽そのものに触れている時に、音楽には協調性が生まれます。そもそも協調性が無ければ音楽は整理しないものです。

クラシックの音楽家が「家では演歌を好んで聴きます」というようなことは割りとよくあります。

本当の音楽好きの人が「私はモーツァルトが好き」「私はベートーヴェンが好き」と言った時に、どちらが正しいかと言う話しにはなりません。

音楽の好みで善悪を問うなどナンセンス。印象派、現代音楽、バロック、どれが正しいということではありません。芸術というのは白黒つけるものでなく、それぞれの感性で楽しみ喜び、自分と違う好みを喜ぶものです。

自分と違うものを好む人、違う価値観を重んじる人と対立的にならない分野というのは実は非常に珍しいもので、これが右脳を中心とした芸術の力です。

まとめ

世界がさらにグローバルになっていくことは明らか。その時に自分と他者を区別する論理性だけを振りかざす人は時代の潮流に取り残されてしまいます。

論理性と共に協調性。私はOK、あなたもOK。こういう右脳的センスを持ちながら、自分の専門性を生かしていく時代がすでに始まっています。

何の道に進むにも、音楽によって培われる右脳的センスは、これからの時代その人の能力を最大限に生かしていく力になります。

楽器を上手に演奏できる技量を身に着けるというより音楽を楽しめる人になっていくことではないでしょうか。そのためにはやはり楽器を習うことが一番。自信をもって、子どもさんの楽器演奏の習いごとを考えてみてください。

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