コントラバスのルーツと呼ばれるヴィオローネ。しかし、そもそもヴィオローネという名称が指す楽器が何であるのか複雑な問題もありよく分かりません。
空前の古楽ブームと言われる昨今、ヴィオローネとコントラバスの関係に関心を持つ方が私も含めて多いのですが、中々日本語ですっきりわかるサイトが見つかりません。というわけで、こちらのブログでヴィオローネを解説します。
ヴィオローネの誕生
ルネッサンス・バロック時代のヨーロッパには弓奏弦楽器が2種類共存しており、一つはヴィオラ・ダ・ガンバ、もう一つはヴィオラ・ダ・ブラッチョでした。これは楽器の名称ではなく楽器族のようなもの。それぞれに音域の異なるいくつかのサイズの楽器があり一つの「属(族)」を構成するのです。
ヴィオラ・ダ・ブラッチョ属
ヴィオラ・ダ・ブラッチョから現在のバイオリン属が生まれ、バイオリン・ヴィオラ・チェロの大小の楽器が成立しいます。
ヴィオラ・ダ・ガンバ属
ヴィオラ・ダ・ガンバ属はバイオリン属よりも分類が複雑で、名称も統一化されていないですが、音域の高いほうからトレブル・ヴァイオル(ソプラノ)、テナー・ヴァイオル(アルト)、バス・ヴァイオル(テノール)と元々はこの三楽器が主でした。
やがて16世紀後半から宮廷音楽の祝祭性が強まり、より大きな合奏体が要求されるようになります。人数の増えた大きな合奏を支えるために、豊かな響きを持つ低音楽器が必要になりました。
このようにして、バス・ヴァイオルをさらに大きくした身の丈ほどのグレート・バス・ヴァイオルが作られます。これがヴィオローネです。
ヴィオローネの名称の問題
このようにヴィオローネとはヴィオラ・ダ・ガンバ属の中でバス・ヴァイオルよりさらに大型の楽器を指し、音域的にはヴァイオリン属で言えばチェロに対応するバス・ヴァイオルよりさらにオクターブ低い音を担当するグレート・バス・ヴァイオルのこと。現在のコントラバスの位置づけを持つ楽器でした。
一方で、バロックの偉大な作曲家コレルリやヘンデルは「ヴィオローネ」を現在のチェロを指す名称として使っていたことが近年はっきりとしてきます。この辺りに名称としてのややこしさがあります。
20世紀までは演奏者や学者は「ヴィオローネ」の名称が、グレート・バス・ヴァイオルだけを指す名称と理解していたので様々な混乱が起こりました。近年ヴィオローネという名称は実際にはあらゆる大きな弦楽器を意味して使われていたことがはっきりしています。
歴史的な用語法による「ヴィオローネ」には、ヴァイオリン属およびヴィオラ・ダ・ガンバ属のテノールおよびバスの音域のあらゆる楽器が含まれるのです。
コントラバスのルーツ ヴィオローネ
このように、ヴィオローネという名称は広義・狭義、時代によって様々に使われることが分かりました。
さて、コントラバスのルーツとしてのヴィオローネについてもう少し続けますが、コントラバスにそっくりのガンバと言えば「Dヴィオローネ」です。
これはヴィオラ・ダ・ガンバ属で最大の楽器であり、6弦でバス・ヴァイオルより1オクターヴ低いDに調律されます。大きさは現在のコントラバスとほぼ同じサイズ。一見してコントラバスのルーツであることが分かります。
ヴィオラ・ダ・ガンバはどのサイズも足で挟み込み、楽器を床につけずに演奏することを基本としていますが、さすがにコントラバスサイズを足で抱え続けることは不可能。エンドピンが無いもの楽器を床につけて演奏します。木製のエンドピンをつけている楽器もあります。
このほか、Dヴィオローネよりもう少し小ぶりで高い調弦をするGヴィオローネと呼ばれるものもあります。サイズ的にはチェロを大きくしたイメージですが、コントラバスとチェロの中間、というサイズ感です。動画を参照ください。
これらがコントラバスのルーツであるヴィオローネです。
まとめ
ヴァイオリン属に比べると随分複雑なヴィオラ・ダ・ガンバ属。ヴィオローネと一口で言っても中々分かり辛いものですが、本ブログで少し整理することができたでしょうか。
一時はほとんど姿を見ることが無くなってしまったヴィオラ・ダ・ガンバ属の中で、唯一西洋音楽に必須の楽器として若干のモデルチェンジをしつつも生き残ったヴィオローネ。魅力的な楽器です。
通常の小編成コンソートには中々登場しないので見る機会も限られますが、空前の古楽ブーム。あちこちでコンサートが開催されています。ぜひヴィオローネの活躍する演奏会を探してみてください。