日本の冬と言えば乾燥です。弦楽器にとって湿気が大敵というのは常識ですが、乾燥も要注意です。
良い弦楽器の条件として木が良く乾燥していると言われるので、ともすると湿気は悪いけれど乾燥は楽器に良いのでは、と勘違いしてる方がいますが、行き過ぎた乾燥は楽器にとって致命傷になります。実際、日本の冬期の乾燥はそのレベルなので対策が必要です。
今日は乾燥する冬の弦楽器管理の注意点をまとめます。
乾燥は大敵
くりかえしますが、弦楽器にとって極端な乾燥は大敵です。
弦楽器にとって理想的な湿度は50%くらいだと言われます。目安として45~55%くらいの間で湿度を保てると理想的です。
神経質になりすぎる必要はありませんが、40%を下回るほど乾燥してきたら対策が必要です。乾燥を放置しておくと以下のようなトラブルが起こります。
鳴りの問題
弦楽器は「乾燥していると良く鳴る」と言われます。実際、古い楽器が良い音がするのは、木に含まれる水分が抜けて楽器が響きやすくなるからです。水分は響きの邪魔をしてしまいます。
しかし、乾燥しすぎるのも問題であまりにも水分が無くなった楽器は今度は潤いの無いカサついた音になってしまい、鳴りの悪さを感じるようになります。
弦楽器が本来の響きを放つのには適度な湿度が必要で、それが大体50%くらいだと考えられています。
破損の危険
木は水分によって伸縮します。水分を含めば膨張するし、水分が抜ければ縮みます。ヨーロッパも地域によっては非常に乾燥しますが、日本のように一年の中でそれほど大きな湿度の変化は起こりません。
日本の気候の問題は、雨季と乾季の差が激しい事。梅雨にたっぷり水分を含んで膨張した木が、冬になって乾燥しカラカラになって縮みます。また梅雨になって…ということで、弦楽器には非常に負担のかかる気候なのです。
ネックのトラブル
ヴァイオリンの弦の張力は20~25kgくらい。コントラバスにいたっては100kgを超える張力がかかります。これだけの張力で引っ張られ、常時負担がかかっているネックは消耗品と言っても過言ではありません。
最悪、上の写真のようにネックが外れてしまいますし、ここまでいかなくても下の写真の方向で張力によって少しずつネックが下がってしまいます。
普段何気なく弾いているだけではわかりづらいですが、湿度の変化によってネックは微妙に上がり下がりを繰り返しています。基本的に梅雨の時期はネックは下がり、冬などの乾燥期はネックは上がります。
温度と湿度が高いとニカワが緩み、木材も膨張して指板が下がるのです。一方、湿度・温度が低くなることでニカワの緩みが解消し、木材は収縮するのでネックが上がります。
ネックの消耗は避けられませんが、できる限り湿度をコントロールしてネックの負担を軽減してあげることが、ネックを長持ちさせる秘訣です。
乾燥対策
加湿器の使用
一番シンプルな湿度管理は加湿器、除湿機の使用です。練習時だけでなく、普段楽器を置いている部屋を常時湿度管理することができれば最高です。
湿度を正確に把握しましょう。体感で「今日は乾燥しているな。湿気が多いな」と判断するのではなく湿度計で確認します。当たり前のことですが、人間の快不快と楽器のそれとは違いますので。
注意点として安価な湿度計は誤差で片付けられないほど不正確です。よくある楽器ケースに付属した湿度計はアバウトなことが多いです。温度計に比べて湿度計は不正確なものが多いので気をつけてください。
ダンピットの使用
ダンピットと呼ばれるホース状の器具が乾燥対策で以前から使われています。ホース状の筒の中にスポンジのようなものが入っていて、それを適度に湿らしてf字孔から挿入します。
内部のスポンジが水分を保持してくれるので、楽器の内側から適度な湿気を与えてくれて乾燥対策になります。しっかりと絞って表面の水を拭き取っておけば水滴がたれるようなことはありません。
また逆に湿度の高い季節に、乾いたダンピットを入れることで湿気対策に使ったりもします。
湿度調整に便利なダンピット、コントラバスやチェロでは良く見かけますがバイオリンではそれ程使われないようです。一番の原因はダンピットが魂柱に当たってしまうこと。ヴァイオリンの魂柱は極めて繊細。ダンピットがぶつかることで魂柱のセッティングに問題が生じることを危惧する方も多いようです。
Oasis 加湿器(ケース用)
乾燥対策でのおススメはここ数年人気が高まっているOasis製の加湿器です。水をジェル化しゆっくりと水分を発散してくれるので、適度な湿度を保ってくれます。ジェル状なので水滴がこぼれる心配がありません。
湿度によりますが、2・3週間程度で水分補給をすれば大丈夫。繰り返し使うことができます。
ダンピットのように楽器の内部に設置するタイプもありますが、さすがに大切な楽器に差し込むのはジェル状で心配ないとは言え私は抵抗があるので、楽器ケースの内側につけるタイプをおススメします。ケース内の湿度が適度であれば安心ですよね。
弦楽器愛好者を長年悩ませてきた冬季の乾燥対策、これは決定版と言えるほどに画期的なアイテムです。ぜひ一度お試しください。
まとめ
弦楽器にとって過度の乾燥は大敵。直ぐに割れ等が出なくてもジワリジワリ楽器を痛めつけ、いつか大きな問題が生じます。日頃からの乾燥対策は必須です。
注意点に普段から気を配り、ご紹介した道具を活用すれば、湿度の変化の激しい日本でも弦楽器を良い状態に保つことは可能です。
ちょっと手間がかかって面倒な思いをするかもしれませんが、そうやって色々手をかけてあげることで楽器の音色は良くなっていくもの。ぜひこの冬、愛器のコンディションに気を使ってあげてください。