ヴァイオリンの値段ほどミステリアスなものは珍しい!?
新品の量産型の楽器は最初から値段を決めて製造・販売しているので分かりやすいですが、管楽器と違いヴァイオリンは専門の道に進むと「定価○○円 型式HV-○○」のような物を購入することはほとんどなくなります。
新作ヴァイオリンの価値
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新作を使うにしても職人さんが一本一本精魂込めて造ったものです。値段は職人さんが決めます。当然同じ材料を使っても良し悪しの個体差が出てきます。出来た楽器を30万にするか、50万にするか、100万にするか。職人さんが「この楽器はいくらにしよう」と決め、その値段に納得してお客さんが購入する。その時にその楽器の価値が“とりあえず”は確定するのです。
このように、完成した楽器の価値を最初に確定するのは職人さんと購入者です。
オールド・モダンの高価な楽器
すでに出回っている、オールドやモダンなどの高価な楽器も基本構造は同じです。
フィクション
220年前のイタリアのバイオリンを、某楽器商があるルートで100万円で仕入れました。日本でのバイオリン販売の経験が豊富な、このバイオリンが楽器屋は日本人好みの楽器であることを察知して「これは日本なら300万で売れるぞ」とそろばんをはじきます。
しかしこの時点では楽器の価値は未定です。あえて言うならば100万円+α。この楽器の価値が確定するのは楽器商の言い値で誰かがその楽器を購入した時です。
やがて、楽器商が見込んだ通り音大に通う女子大生がこの楽器を300万円で購入しました。この瞬間、この楽器は300万円のバイオリンになったのです。
数年後、楽器を買ったこの方は演奏の技量の伸び悩みを感じ、師事する先生を替えて別の先生に習うようになりました。すると最初のレッスンで新しい先生から「
けれども、この段階ではまだ楽器の価値は変わりません。その先生の言葉を無視して所有者が「
しかし、それ以来楽器の所有者は先生に言われた言葉が気になり、
この時このバイオリンは150万の価値になったのです。
でもそれで終わりではありません。まだまだ起死回生のチャンスはあります。やがて、色々な経緯を経て別の楽器商が100万でこの楽器を仕入れ「これは300万で売れる」と考え、実際300万で購入する人が現れるのです。
晴れてこのバイオリンは再び300万の価値を持つに至ったのです。
まったくのフィクションです。極端な話しに思われるでしょうが、しかし詰まるところバイオリンの値段とはこういう面があるのです。
だからこそ、特に高額の楽器購入に際しては信頼できる楽器屋さんとの付き合い。また信頼できるバイオリニストのアドバイスを得ることが大切です。
ガイドラインはあるけれど
制作年代や製作者、楽器の状態など楽器の価値を決めるガイドラインはありますが、それは所詮参考にしかなりません。
300年前の著名な製作者の素晴らしい楽器が良いコンディションだったとして、でも弾いてみてその楽器を気に入るかどうか、そこは結局買い手の主観です。逆にいつ誰が作ったのかはっきり分からない楽器でも、素晴らしい音がして名器と価値を認められ高額で取引されることもあるわけです。
名器ストラディバリウスの価値とは?
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しばしば数億円の値がつくヴァイオリンの王様ストラディバリウス。
最近ストラディバリウスと新作の楽器をホールで弾き比べ、良い楽器を選ぶというような実験が行われています。
どちらの楽器かを分からなくした状態で、ヴァイオリニストが2つの楽器を演奏し聴き手に評価を求めます。そうすると、新作の楽器が良い楽器として選ばれることの方が多いそうです。幾つか類似の実験が行われていますが、専門家が関わるほど上記の傾向が強くなるようです。
実験としては興味深いですが、しかしこれでストラディバリウスの価値を計ったり、その価値に疑問を投げかけるなどナンセンス。
ストラディバリウスに価値を見出すヴァイオリニストや楽器収集家が数億のお金を払う以上、誰が何と言おうと、どんな実験結果が出ようとストラディバリウスの価値は数億なのです。
まとめ
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楽器の価値・値段には多分に主観が含まれます。そういう性質のものだから仕方がありません。好みの違い、楽器に求めるものの違い、時代の違いで価値が大きく変動します。
そういう楽器の性質を悪用する人もいるので注意が必要。一方で、他所の楽器屋さんなどで全然違う価値判断を下されて「騙された」と安易に考えるのも違います。
主観的な性質をもったものであるがゆえに、購入に際しては色々な方のアドバイスをいただくことが大切です。
そして熟慮の上購入した楽器は、あまり人の意見を気にせず「私の名器」と信じて可愛がってあげてください。あなたのヴァイオリンの価値を決められるのは今その楽器を愛用しているあなただけなのです。
楽器や奏法に関する専門的な内容からヴァイオリンにまつわる面白エピソードまで、一気に読んでしまうお勧めの本。専門的でありながら画一的な視点ではなく多角的で柔軟な内容。私のお気に入りの一冊。