コントラバスを言葉で紹介する際に「バイオリンが大きくなった楽器」と説明すると大抵の人はピンとくるようです。
バイオリン⇒ヴィオラ⇒チェロ⇒コントラバスと段々バイオリンが大きくなっていくイメージを多くの方は持っているでしょう。
しかし実際にはコントラバスだけが「バイオリン・ビオラ・チェロ」とは違う特徴が幾つかあります。細かく言うと数えきれませんが、代表的なところは以下の通りです。
- 楽器形状の違い
- 弓の持ち方の違い
- 糸巻きの違い
- 調弦の違い
なぜ同じ弦楽器の中でコントラバスだけが異なる性格を持っているのか。今回はあまり知られていないコントラバスのルーツを紹介します。この記事を読むと、これまでとは違う視点でコントラバスの特徴を捉えることができます。
コントラバスのルーツ
コントラバスが他の弦楽器と違う主な理由は、楽器のルーツに起因します。
パッと見それほど違いは感じませんが、「バイオリン・ビオラ・チェロ」の三つの楽器が【バイオリン属】であるのに対して、コントラバスは【ヴィオラ・ダ・ガンバ属】という別の楽器をルーツにしているのです。
ヴィオラ・ダ・ガンバ属はバイオリン属よりも歴史が古く、16世紀には宮廷で愛好されていました。バイオリン属と形はそっくりですが、細かいところで色々と違いがあります。
上の写真をご覧いただくと違いを発見されると思います。弦の数が6本であること。ギターのようなフレットがついていること。f字孔がcの字になっていることなどなどです。
コントラバスはこのようなヴィオラ・ダ・ガンバ属から派生した楽器です。
コントラバスとバイオリン属の違い
コントラバスと他の弦楽器の違いを見ていきましょう。
糸巻きの違い
バイオリンなどの糸巻きは正面から見て横に飛び出してつけられていますが、コントラバスだけは後ろ向きになっています。
この違いは、楽器のルーツとは関係ありません。コントラバスの強い張力を支えるためにギアードペグを使っているためで、ガンバ族もバイオリン属も元々糸巻きのついている方向は同じです。⇒参考:コントラバスのペグ交換が分かる 一体型から独立型に
弦の音程の違い
バイオリン、ヴィオラ、チェロは全て隣の弦との音程が五度になっています。ですから、調弦をする際に同時に二本を鳴らすと聞き取りやすい完全五度なので、正確に弦を合わせることができます。
一方コントラバスは隣の弦との音程が四度になっています。これは楽器のルーツの違いで、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の楽器が基本的に四度調弦になっていることの名残です。
ですからコントラバスはバイオリンのような調弦の方法ではなく、ハーモニクスを利用して音程をそろえていく調弦方法を使います。
楽器形状の違い
楽器のボディの形状をよく見比べると、バイオリン属は角ばったいわばいかり肩であるのに対し、コントラバスは滑らかななで肩になっています。上の写真の青い印のところです。
これはコントラバスが高い音を弾く際のハイポジションの奏法を可能にするための形状の工夫だと思われがちです。
事実、肩が張っているとハイポジションを弾くのが困難になってしまうのですが、ルーツとしてはヴィオラ・ダ・ガンバの形状が全てなで肩になっていることを受け継いでいます。
弓の持ち方
コントラバスの弓は手のひらを弓の竿に対して上に向けて持ちます(ジャーマン式)。一方、バイオリン属では手のひらを竿に対して下向きにして持ちます。
この違いもヴィオラ・ダ・ガンバをルーツにしたもので、現代のコントラバスとは持ち方が違いますが写真を見ると分かるように手のひらを上にして弓を持つ形が似ています。
サイズ
冒頭の写真にあるようにヴィオラ・ダ・ガンバには様々なサイズがあります。一方バイオリン属は、バイオリン・ヴィオラ・チェロと三つのベースになる形が決まっています。ヴィオラはサイズに幅がありますが、それでもパッと見てヴィオラと分かる範囲のサイズです。一方ヴィオラ・ダ・ガンバは規定のサイズが無いので大きさがまちまちです。
実はコントラバスもサイズの幅が非常に大きな楽器で、全長170cm~200cmとバイオリン属では考えられない差があります。個別の形状も個体差が大きく、持ち運びが大変なコントラバス奏者は演奏場で与えられる様々なサイズの楽器を弾きこなせるスキルが求められます。
これは恐らく、サイズや形状が自由なヴィオラ・ダ・ガンバ属の流れを汲んでいるからであろうと考えられます。
コントラバスのヴィオラ・ダ・ガンバ属からの変化
このようにヴィオラ・ダ・ガンバ属の影響を様々に残しているコントラバスですが、一方でバイオリン属の影響で変化した場所もあります。
- フレットが無くなる
- 弦の数が四本になる(五弦あり)
- エンドピンが付く
- c字孔がf字孔に変わる
これ以外にも色々変化がありますが、ガンバ属の特徴を残しつつもバイオリン属の影響を受け現在のコントラバスの形になっています。
まとめ
このように、似ているようでルーツの違いからバイオリン属とは異なる個性を持つコントラバス。
オーケストラのコントラバスをよく見ると弦が五本ついているコントラバスもあります。E線よりもさらに低いC線をつけて使われます。このようにヴィオラ・ダ・ガンバ属の特性が現代のコントラバスにも随所に残っていて、その特性が古典派以降の音楽の中でもオーケストラや室内楽に不可欠な楽器として重宝され、最低音を支え続けているのです。
音色だけでなくコントラバスのルーツを意識しながら見ていただくと色々な発見があるのではないでしょうか。