バイオリンは演奏したり聴いたりする楽しみだけでなく、楽器の特徴や歴史を知ることで職人の技や工夫、それぞれの楽器の個性を楽しむことができます。
自分の楽器を知ることで愛着が増し、演奏することの楽しさも倍増です。せっかくバイオリンを手にされるのなら、ぜひぜひ楽器についての知識を蓄えて、バイオリンを多面的に楽しむことをお勧めします。
というわけで、今日はバイオリン製作の歴史についてまとめます。パッと見、同じような形にしか見えないバイオリンですが、実は四つの型に分類できるのです。それぞれの特徴を分かりやすく紹介します。
四大ヴァイオリンモデル
ヴァイオリンには代表的な4つのベースになる型があります。
①アマティモデル
②シュタイナーモデル
③ストラディバリモデル
④グァルネリモデル
これらは全て歴史に名を残す名工の名前を冠しており、4人の名工が制作したオリジナル楽器をモデルにして造られるヴァイオリンを○○モデルと呼んだりします。
ただ四大ヴァイオリンモデルと言っても、現代実際に作られるほとんどの楽器はストラディバリウスをコピーしているストラディバリモデル(以下ストラドモデル)です。
ストラディバリウスの名前は音楽にあまり関心が無い方でもご存知であろうと思います。数億の値段で取引されるヴァイオリンの王様です。現代の多くの楽器はこのストラディバリウスを教科書にして造られているのです。
膨らみ・アーチの違い
四つのヴァイオリンモデルを比較する一番分かりやすい場所は楽器の膨らみ・アーチと呼ばれる場所です。下の写真をご参照ください。
膨らみが大きい | ⇒ | ⇒ | 膨らみが小さい |
シュタイナー | アマティ | ストラド | グァルネリ |
基本的にヴァイオリンはボディーの膨らみが高くなるほど甘い音がするようになり、一方で出せる音量は小さくなります。
四大ヴァイオリンの中でもっとも古いアマティモデルは膨らみが大きい(ハイアーチ)作りになっています。ですからアマティモデルは現代のヴァイオリンと比較すると音量は小さめですが、その分甘い音がします。
そして次の時代のシュタイナーモデルはアマティモデルよりもさらにアーチが高くなります。音量はやはり小さめですが独特の甘い美しい音色が特徴。シュタイナーモデルの音色は繊細でなんとも言えず魅力的。
実は18世紀半ばまで、最も価値があり人気のあるヴァイオリンはこのシュタイナーモデルでした。モーツァルトの愛用したヴァイオリンもシュタイナーのもので、一時はストラディバリウスの4倍の価格で取引されていたと言われています。
そしていよいよストラドモデルが誕生するわけですが、ここで一気に膨らみが小さくなります。この膨らみ具合が現代の慣れ親しんだヴァイオリンの形です。音量重視ということになります。
最後に登場するグァルネリモデルはストラドモデルよりもさらに膨らみが小さく、ほぼ平らと言えるほど。よりパワーを持った構造になっています。
シュタイナーからストラディバリウスの時代へ
このように四大ヴァイオリンの際立った違いはアーチにあります。それは言い換えると、ヴァイオリンに求められる音色と音量の違いです。
なぜそのような違いが生じたかと言えば、主には音楽が演奏される場所の変化です。
元々ヴァイオリンをはじめとするクラシック楽器は良く響く教会の会堂や宮殿、貴族の屋敷の大広間などで演奏されることが主でした。ハイアーチのアマティやシュタイナーモデルが主流だった時代というのは、小・中規模の良く響く場所がヴァイオリンが活躍する主な舞台だったのです。ですから、そんなに大きな音量が出なくても良い音色が出ればそれが会場全体に響きました。
しかし、ストラドモデルの価値が一気に高まる18世紀半ば、音楽の演奏の場が大規模のコンサートホールへと急速に移行していきます。
当然求められる楽器の性能として、大ホールで大勢の人に届くパワーが重要視されるようになります。そう意味ではもっともアーチが平らなグァルネリモデルがもっとも現代的なヴァイオリンと言えるのかもしれません。
もちろん、音量が出れば良いということではなく、音量が出てしかも美しいヴァイオリンの響きを持っているゆえにストラドがこれだけ高く評価されるわけですが、音量という条件を外すならシュタイナーやアマティの楽器の魅力は今なおストラドと双璧をなすと言えるでしょう。
まとめ
ヴァイオリンはどのような場所での演奏に用いられるかによって、アーチ構造に変化が生じ、そのことによってそれぞれのモデルの価値に大きな変化が生じました。
何千人を収容するホールでの演奏が求められる現代においてストラドは最高のヴァイオリンですが、響きの良い小規模の場所での演奏が主だったモーツァルトの時代において最高のヴァイオリンはシュタイナーでした。
時代時代によって求められるものに違いがあり、それによって価値が変わるのがヴァイオリンです。
ともすると画一的な価値観で計られてしまいがちな弦楽器の世界ですが、それぞれのニーズに応じて相応しい楽器には違いがあるわけで、自分にとっての最高の楽器も人それぞれ。あなたにとっての最高の名器を見つけてください。