バイオリン好きな方は、オールドバイオリンという言葉の響きだけで心躍るもの。一方で、高いバイオリンの代名詞のようなところもありますね。
健康なオールドの楽器ですと、新車くらいの値段からはじまり青天井。専門に音楽の道を志さない限りなかなか縁がありません。
そんなオールド楽器を少しでも安く入手する方法は無いかと思いますが、残念ながらそういう方法はありません。価値がはっきりしたオールドバイオリンは相応のお金を出して購入するものです。
ただ、オールドバイオリンと言っても色々なものがあり、その人の価値観や用途の中で一般的には評価されていないオールド楽器が、ある方にとっては最高の楽器になる可能性はあるわけです。
必ずしも普遍的とは言えないバイオリンの価値。それゆえに見方を変えてみたときに思いがけないチャンスが潜んでいるのかも。この記事を読むと、今まで気づかなかったオールドバイオリンの価値観があることを発見できます。
ちょっと変わったオールドバイオリンの話し
オールドバイオリンとは
古い高価な楽器の意味で「オールド」とざっくりと使われることが多い言葉ですが、実際には今から大体200年以上前に作られた楽器を指して使われます。
古そうな楽器をみんな「オールド」と呼んだりしますが厳密にはそれは間違いです。150年くらい前の楽器でも貫禄のある顔をした楽器はたくさんありますが、200年以内の楽器は「モダンバイオリン」と呼びます。
古ければ良い楽器?
200年以上前というと18世紀以前ですから相当古いですね。ただもちろん古ければ良い楽器というわけではありません。
仮に私が10万円くらいの新作バイオリンを購入して200年後の子孫の財産にしようとしまっておいても、それが後になって数百万の楽器に変わるわけではありません。
多くの場合途中で壊れて処分されてしまうでしょうし、たまたま200年後まで保存されていても、その時にはもう使えない状態になっていると思います。
オールドバイオリンの一つの価値は、200年経ってなお健康な状態で演奏ができるという、構造的にも材質的にも確かな楽器であるというところです。
バイオリン、四つのモデル
以前まとめたようにバイオリンには四つのベースになる型のようなものがあります。⇒良く分かる、バイオリンの四つのモデルについて
四つのモデルの中で現在実際に使われるもののほとんどはストラディバリモデルです。そしてガルネリモデルです。上記のブログを読んでいただくと分かりますが、他の二つアマティモデル・シュタイナーモデルのようなハイアーチの楽器は現在では価値の劣るものとされています。
ただそれは現代という文脈の中での評価に過ぎません。アマティやシュタイナーモデルの全盛時代は、現在よりも小さく響きの良い場所で演奏されることがもっぱらでした。今はどこにでもあるような数千人の大ホールが演奏家の主戦場になったのはそんなに古い時代のことではありません。
昔は教会や宮殿の広間など素晴らしい響きをもったコンパクトな場所で演奏されるのがもっぱらのことであり、そういう時代の中ではアマティやシュタイナーのバイオリンが最高の楽器だったのです。
時代が変われば
例えば、バイオリンを専門的に学ぶ音大生がどんなに高価であってもハイアーチの楽器を使っていたら師事する先生にローアーチの楽器に変えるように勧められるでしょう。現代という文脈の中でバイオリンを学ぶ以上それはやむを得ないことです。
1000人が入るホールでソロを弾いた場合、ハイアーチの楽器では期待される演奏は難しいですし、大ホールの大編成のオーケストラの中で期待される音を出すことは難しいでしょう。
みんなが大ホールで弾くわけではない
このように、楽器屋さんでつけられているバイオリンの値段は基本的に現代の価値観の中での評価です。300年前はシュタイナーバイオリンがストラディバリの4倍の価値を認められていたのですが、それは300年前の人が楽器を見る目が無かったわけではなく、求められているものが違ったということであるし、価値観が変化したに過ぎません。
ここで一つ気がつくことは、現代であってもバイオリンを弾くすべての人が大ホールで弾くわけではないということです。すべてのが人が、大ホールでソロを弾いたり大編成のオーケストラでマーラーの交響曲を弾くわけではありません。
響きの良い小・中規模のホールで主に演奏するのはモーツァルトです、という方がいたらその人にとってシュタイナーモデルの楽器が若干パワー不足であってもそれ程問題にならず、むしろハイアーチバイオリンの音色の良さが大きな価値になるということもあります。
シュタイナーモデルのようなハイアーチバイオリンは、オールド楽器であってもローアーチの楽器に比べてずっと値段が安くなっていますから、ストラディバリモデルのオールドよりはるかに求めやすいです。
アマオケが軽々とマーラーの交響曲を演奏してしまう時代なので、基本的にはアマチュアの方もローアーチの楽器をお求めになることが安心です。ただ明確に“私はそういうのはやらない”という方もいるでしょう。
そういう方が自分なりの価値観の中で、自分にとっての名器を求めていく中でハイアーチオールドを気に入られるのならば、現代のスタンダードな価値観に囚われる必要は無いわけです。
まとめ
ハイアーチのバイオリンは現代は非常に評価が低く「こんな物」呼ばわりするような楽器屋さんもいます。しかし、極端なハイアーチでなければ、独特の魅力を感じる楽器がたくさんあります。割と安くオールドの楽器が購入できるチャンスでもあります。
なにはともあれ弾いてみないと分かりませんので、楽器店などで試奏させてもらってください。なんとも言えないハイアーチバイオリンの甘い音色に魅了される方もいらっしゃるかもしれません。