お手頃価格(安価)の楽器を選ぶにあたって、押さえておいたほうが良いバイオリンの制作や材料・構造の問題が幾つかあります。
良い楽器を購入するにはそれなりの知識を身につける必要があります。特に「安くて良い楽器」という無理な目標を達成するには勉強が欠かせません。
今回はプレス工法と削り出し工法の違いについてお話しします。
この記事を読むと安価な楽器購入の際に見分けなければいけない、削り出しとプレス工法の違いが良く分かります。
削り出し工法とプレス工法
削り出し工法
バイオリンをはじめ弦楽器は、材料となる木材を職人さんが手作業で削り出していく「削り出し工法」によって造られます。
厚い木を削りだすのは大変な労力を必要としますし、材料の木材の8~9割はくりぬかれて不要になります。贅沢な木の使い方と職人さんの大変な作業の中で制作されるのです。
「弦楽器は高い」と文句を言いたくなることもありますが、それは何でも機械で大量生産される現代人の感覚。こうした作業を考えるとある程度の価格設定がやむを得ないことが分かります。
プレス工法
一方で、現代はこのような手間暇をかけず機械で制作する「プレス工法」という方法があります。
厚い木を削りだすのではなく、最初からバイオリンの木の厚みに近い板を用意して、熱を加えて変形させバイオリンのボディの凹凸を作っていきます。
削り出す手間がかからず、しかも削らないので製作に要する木材の量も8~9割減と非常に効率的。当然費用がグンと抑えられるので販売価格が安くなります。
プレス工法の問題
厚い板を削り出して形を作っていく削り出し工法と、最初から薄い板を変形させながら形を作っていくプレス工法と、まったく正反対の方向で作られていくバイオリンですが、素人にはパッと見、違いはほとんど分かりません。
しかし性能には大きな違いが生じるであろうこと、予想がつきますよね。
1、強度の問題
まず強度が全然違います。削り出した木材と、熱で変形させた木材とでは圧倒的に前者の方が強度があります。
2、音の問題
バイオリンの木の厚みは一定ではありません。職人の業という他ありませんが、微妙な厚みの変化の中で最善の音響効果が得られるように造られています。
一方、プレス工法の場合基本的に一定の厚みの板で作られますので、結果としてプレス工法の楽器の方が木が厚くなります。厚みに変化が無く、しかも全体が厚くできていますから楽器は響きません。
3、経年変化の問題
熱で変形させていますので、経年変化で段々と膨らみが無くなったり歪みが生じたりします。形状の問題だけでなく、それにまつわり接着面のはげれや割れなども起こり長い年数の使用には耐えられません。
購入時に確認しましょう
バイオリンを購入する際に、削り出し工法であるか、プレス工法であるかは必ず確認が必要になります。高額な楽器でプレス工法はあり得ませんが、安価な楽器はプレス工法が使われている可能性大です。
販売時に削り出し工法で作られている楽器は大抵そのように書いてあります。一方プレス工法の場合はわざわざそのように書かれないことがあります。安価で工法についての記載が無い場合プレス工法を疑った方が良いでしょう。
安価な楽器を検討する場合でも、削り出し工法の楽器を探さないと「安かろう、悪かろう」になってしまいます。
その他の工法として
最近では「半プレス工法」と呼ばれる工法があります。
削り出しの場合、一から職人さんが削り出していくわけですが、半プレス工法の場合ある一定の場所まで機械で加工し、途中から職人さんが手を加えていくというやり方です。
また音響面に影響が無い場所のみ機械で製作するようなこともあります。
一般の方にはプレス工法か削りだしかを見分けるのも難しいですので、基本的には商品の記載を頼りにするしかありません。完全な削りだしの楽器を求める場合、やはりそれだけの職人さんの手間がかかっているわけですから、相応の対価が求められるのは当然で、安く済ませる場合機械の関与は許容するつもりで購入してください。
まとめ
完全プレス工法の楽器は構造的に長期間の使用に耐えられないこと、そして構造的に音響面の問題が大きいので基本的には避けたほうが良いです。
安いことにはそれなりの理由があります。極端に安い楽器は記載が無くてもプレス工法と考えるのが普通です。
このように弦楽器は最終的には専門家にみてもらわないと分からない面がたくさんあります。そういう意味で、楽器店で直接購入することにはメリットは確かにあり、楽器店の値段がネット販売より高かったとしてもそれなりの価値があることは確かです。高額の楽器は、楽器専門店で購入されることを強くおススメします。
ただ1年程度で買い替えが必要な子どもさんの分数楽器やアマチュアの方の入門楽器、入門楽器の次の楽器などをネットを介して安く購入するのは有力な手段だと思います。
その際にはこのような楽器の知識を身につけて様々な面から検討していただくと良いと思います。そのようにあれこれ悩んで手に入れた楽器を大切に弾き込んでいくのは実に楽しいものです。