バスオさんの部屋

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映画「オケ老人!」から考えるアマオケ

投稿日:2019-10-22 更新日:

映画「オケ老人!」を観ました。荒木源 原作の同名小説から2016年に映画化された作品。びっくりするようなストーリーの意外性はありませんが、楽しい中に音楽に関わる者として日頃から感じる本質的な問いもあり、楽器をなさる方にはお勧めの映画です。

「音楽とは何か、アマチュアとは何か」そういうことが大きなテーマになっています。

「自宅で、一人で」という楽器の楽しみ方もありますが、基本的には音楽は人と共に奏で、人に聴いて喜んでもらうことが醍醐味。それゆえに、音楽には常に人が関わり、人との関係性で問題が起こりやすいのです。

「音楽を純粋に楽しみたいのに…」と音楽にまつわる煩わしい人間関係を嘆く人が多いですが、音楽が人と切り離せない性質のものであるがゆえにそれはやむを得ないことでもあります。特にも100人近い人が一緒に演奏するアマオケはその際たるところ。

このブログ記事を読むことで、とかく人間関係が煩わしくなりやすいアマオケの音楽活動について再考する機会となり、皆さんの音楽の時間がさらに素晴らしいものになることを願います。

 

あらすじ

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数学教師 小山千鶴(杏)がアマチュアオーケストラ(以下 アマオケ)「梅が丘フィル」のコンサートに感激し入団を決意するも、間違えて老人ばかりの「梅が丘交響楽団」に入団してしまう。

ほんとどオーケストラの体をなさない梅が丘交響楽団。何度も退団しようとするが引き止められ、逆に指揮を任されてしまう。

ある日、梅が丘フィルに名指揮者フィリップ・ロンバールが来ることを知った千鶴はロンバールの下での演奏の機会を切望してバイオリン奏者として入団し、二つのオケを掛け持つようになるも、エリート揃いの梅が丘フィルの練習についていけずついに追い出されてしまう。

そんな経験を通して音楽の本当の喜びに気がついていくという、笑いの絶えないストーリーの中で音楽の本質的な魅力について考えさせてくれる良い映画。

日本のアマオケ

世界一アマオケが多い国と言われる日本。レベルが高く意欲的な活動を展開するアマオケがたくさんあります。社会人オケだけでなく学生オケも充実しています。

一方で、音楽・オーケストラを楽しもうと思って入団したアマオケで様々なことに翻弄され「二度とオケなどやらない」と痛い経験をされる方も多いようです。

そういう意味で、この映画で二つのアマオケを通して描かれている音楽の世界はリアルです。プロ顔負けの高いレベルを誇る梅が丘フィル、しかし技術偏重。音楽を楽しむことを忘れ、ついてこられないメンバーは切り捨てる。

一方、梅が丘交響楽団はメンバー一人一人が音楽を楽しんではいるが真摯に向き合う姿勢が無くダラダラ。

千鶴はそんな緊張感の無い未熟な梅が丘交響楽団に嫌気が差し梅が丘フィルに入団するも、間もなく千鶴自身が足手まといと切り捨てられてしまう。

その経験を通して、仲間と音楽を奏でることの素晴らしさに気がつき、そんな千鶴の変化をきっかけにメンバー一人一人の音楽に対する姿勢に変化が生じ、そんな梅が丘交響楽団ならではの音楽が生まれてくるのです。

ロンバールの名言

名指揮者フィリップ・ロンバールのアマオケに対する言葉が印象的です。

私はアマチュアだった頃に戻りたいと思うことがあります。音楽を純粋に楽しめるのがアマチュアだからです。
“音楽を止めよう”と思わせるようなやり方は絶対に間違っています。

しかし実際アマオケを経験して「音楽を止めよう」と思う方が多くいるのは残念なこと。そしてまた、良い音楽を目指すばかりに「音楽を止めようと思わせるようなやり方」にいつの間にか陥ってしまうことがあります。

プロオケは最終的には、演奏を通して給料を得るわけで「仕事」として割り切れるところがありますが、趣味・楽しみで集まるアマオケは気持ち・音楽に対する思いが無くなってしまえばそれを繋ぎとめる術がありません。音楽を喜び、所属オケを愛する一人一人の思い無しには続かないのです。

しかもメンバーそれぞれに生活があり仕事や家庭や色々の都合があります。プロのように全員が必ず練習に揃って、個々人が十分に準備してというのは現実には難しく、技量や時間、音楽に対する思いオケに所属する動機にも違いが起こるのがアマオケ。

そのようなメンバーを一つのアマオケとして包容し「みんなで音楽を続けたい」と思えるような団運営が求められるわけで、それは本当に大変です。個々のメンバーも大変ですが、運営する側の方も苦労が耐えません。

音楽の本道、それゆえの苦労

アマオケに関わる方には必須の本「アマチュアオーケストラに乾杯!」(畑農敏哉著)の冒頭で指揮者の芥川也寸志氏の言葉が以下のように紹介されています。

プロとはある特別の才能をもった、ある特別の人間のことだろうから、音楽がそんな特別なもののために存在するなどということは、到底考えることは出来ない。あえて言えば、音楽はみんなのものであり、「みんな」を代表するもののことを、アマチュアと言ってよいであろう。この意味から言えば、アマチュアこそ音楽の本道である。

アマチュアオーケストラに乾杯!:素顔の休日音楽家たち

「みんなのための音楽」という音楽の本道を実践する場がアマオケであり、それゆえにその苦労は非常に大きいのです。

個人練習して来ない人、合奏練習に来ない人、勝手な演奏をする人、中々上達しない人…、音楽作りをしていくなかで「困った人」がたくさんいます。

けれども、そういう中でお互いに励まし合い・お互いを必要とし合い練習を続けていくからこそ、それぞれのアマオケならではの音が生まれ、技量では当然プロに劣るアマオケの演奏に、魅力や感動が生まれるのです。

芥川氏が言うように「音楽がみんなのもの」であるならば、プロオケというのはむしろ特殊な音楽形態であって、正にアマオケこそが音楽の本道。本道を実践するがゆえに苦労が多いのであって、それはアマオケの特殊な課題ではないのかもしれません。

熱心な人、上手な人だけを集めて精鋭ぞろいのアマオケを作ってみても、所詮プロの演奏には遠く及ばず、「上手なアマチュアの演奏」で終わってしまいます。それを望む人たちがそういうオケを作ることがあってよいと思いますが、音楽の本道を担うアマオケの魅力とは違うものなのかもしれません。

まとめ

音楽の感動は、そこに介在する様々な「人」によるものです。作曲者・演奏者・お客さん・裏方さん・家族、色々な人の存在によって音楽は成立します。

ピアノの発表会での自分の子どもや孫の演奏は家族にとって特別な響きを持つように、プロの卓越した演奏でなくても、それぞれが人生の人間ドラマを抱えながら一つの音楽を奏でる。

その人を知っていたり、その人と同じ地域で生活していたり、そういう繋がりの中で生まれる音楽は、時に世界最高のオケの演奏にも増して感動を与えることがあるのです。

アマオケは一人一人団員さんも、取りまとめ運営する側の方も本当に苦労が多いのですが、そういう中で作り上げられる音楽には特別な力があります。

それぞれの「オケ老人」の活動が素晴らしいものでありますように!

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